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「 先ず一歩 内なる旅に 友は無し 」Zen柳

The Art of Dying 第五章 「所有と実存」(11)

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それ以来、ラビのバエルは、人生の正しい行いについて語るとき
いつもこう言い足した
「オレシーニャの老人は言った
『努力して得られぬものを、得ることはできない』と 」


これは本当だ。
外の世界では あまり正しくないかもしれないが、内奥の世界では 絶対的に正しい。
外の世界には、不正直、騙し、略奪、盗み、搾取が山ほどある。
実際、外の世界では、持っているのは 詐欺師だけで 労働者は多くを持たない。
抜け目のない人が たくさん持っている。
働く者は多くを持たず、働かない者が 多くを持つ。だが内側の世界では、その言葉は 絶対的に正しい。
実存の中には、努力しなければ 何ものも持ち得ない。
それは 懸命の努力によって得られるのであって、近道は存在しない。
だから、神を ペテンにかけようとしてはならない。

物の所有に惑わされている人は、実存に達する機会を すべて失う。


こんな話を聞いた。

ある娘婿が 義母をピストルで撃った。
それで、義母は娘婿を訴えた。

裁判官は言った、「あなたは 酒を飲んでましたね。
そこで、言っておくべきことがあります。
あなたが興奮したのは酒のせいでした。
義理の母親を憎んだのも、彼女を撃つピストルを買ったのも、彼女の家に行ったのも、狙いを定め 引き金を引いたのも 酒のせいでした。
そして、いいですか、しくじったのも 酒のせいだったのです !」


所有することも その話と同じだ、酒と同じだ。
生涯あなたは、所有することを望む。
それは酒のような働きをする。
だから、注意しなさい、気をつけなさい。
それはこの世の 唯一の幻想だ。

いつの日か、あなたは 死に赴く、そのときあなたは悟るだろう。
しかし、それでは 遅すぎる。



ある男の話を聞いたことがある。

男は妻とともに フロリダに行き、八頭の馬が馬場を走り回る光景に魅せられた。
男も妻も 大きく賭けて、二、三日後には 二ドルしかなくなってしまった。
しかし男は 楽天家だったので、ひとりで競馬場に行かさてくれれば、すべてがうまくいく と言って妻を説き伏せた。

友人が車でつれて行ってくれて、最初のレースに賭け率 四十対一というのがあったが、それに賭けることにした。
そして、その馬が来た。

全レースで オッズの高い馬に賭け、すべてのレースで勝利して 終わる頃には 一万ドル以上になっていた。
男は、余勢を駆って さらに勝負しようと心に決めた。
ホテルに帰る途中、小さなカジノに立ち寄り、ルーレットで掛け金を 四万ドルにまで増やした。
あと一回やって 帰ろう、そう決意して 四万ドル全部を 黒の上に置いた。

盤が回転する。 「十四番、 赤」、と クルピエは告げる。

男は 歩いて ホテルに戻った。
妻が ベランダから 声をかけた。
「どうだったの ?」と 妻がしきりに尋ねた。
夫は 肩をすくめて「ニドル 負けたよ」。


結局、死の ときが来ると、あわせて何千回、何千ドルにも及ぶゲーム、あれを 達成した、これを達成した、これになった、あれになった、権力、名声、お金、尊敬などは 何でもなくなる。
最後に あなたは「私は 実存を失った」と言う以外ない。

所有の次元に 突進していけば、起こるのは ただ 一つ、実存を失う ということだ。
生は大きな機会、大いなる 機会だ。
実際、生には 自分自身に達する、自分が何者か を 知る極めて多くの機会がある。
だが それは、困難な道となる。
あなたは 努力しなければならない。

借りようとしてはならない。
内側の世界では 何ものも 借りられない。
それから、単に知識を得ようとしてはならない。
思考のないマインドの 明晰さ、ヴィジョンに達しなさい。
それは この世で最も困難なことだ。
思考を落とすのは この世で最も困難なことであり、最大の挑戦だ。
それ以外はみな、甚だ小さなものでしかない。
それは あなたにできる 最大の冒険だが、 勇気のある人は その挑戦を受け、冒険へと 進んでいく。

最大の挑戦は、いかにマインドを 落とすかだ。
なぜなら、マインドが止まって はじめて神は現れ得るからだ。
知る者が 消え失せて、はじめて見知らぬものは 現れ得るからだ。
マインドが ないとき、あなたが いないとき、あなたが 跡形もなくなったときのみ、ずっと ずっと 捜し求めてきたものが 忽然と姿を現す。
あなたがいないときに 神はいる。
これは 最も 困難なことだ。


(11)終わり・・・(12)へ 続く