

第7章 表層を忘れる
◎⋯⋯98 ハートの中の平安を感じる
生の 外側は台風だ。
絶えざる葛藤、騒ぎ、闘い⋯⋯。
でもそれは ただ表面上のことだ。
ちょうど海の表面が、波や やかましい潮騒や、絶えざる怒涛に満ちているようなものだ。
でも それが生のすべてではない。
奥深くには 中心もまた存在している。
そこは、音もなく 静かで、葛藤も闘争もない。
その中心では、生は 無音の流れであり、安らいでいる。
それは、葛藤もなく 流れる川であり、闘いも、暴力もない。
その内的中心こそが 探求すべきものだ。
表面 つまり外側に同化してしまったら、苦悩がつきものだ。
これこそ 人々みなに 起こっていることだ。
私たちが同化しているのは表面であり、そこには葛藤が絶えない。
表面には動揺がつきものだ。
そうであって 当然だ。
しかし、もし中心に 根づいたら、表面上の動揺は 美しいものとなる。
表面には表面の 美が現れる。
もし 内側が 静かになったら、外側の騒音は 音楽的なものとなる。
もはや 何も不都合はなくなる。
騒音もまた 遊びとなる。
ところが 内側の核、静かな中心を知らなければ⋯⋯もし表面に同化しきっていたら、あなたは きっと気違いになる。
実際、誰もが 気違い同然だ。
あらゆる宗教的な技法、つまり ヨガや瞑想や禅の技法の意図するものは、基本的に、中心との接触の回復であり、内側へと 向かうことであり、表層部を 忘れることだ。
しばらくのあいだ 表層部を離れ、自分自身の中に 深くくつろげば、外側が完全に消え去り、内側だけが残る。
いったん 後戻りする術を知ったら⋯⋯自分自身の中へ退く術を知ったら、もはや難しいことはない。
いとも簡単なことだ。
でも 知らなかったら⋯⋯表面に固執する心しか知らなかったら、それは とても難しい。
自分自身の中に くつろぐことは 難しくない。
表面に 固執しないことが 難しい。
スーフィーの話に こんなものがある。
あるとき、スーフィー行者が 一人、旅をしていた。
ところが 闇夜のことで、道に迷ってしまった。
あたりは真っ暗で、どこを歩いているのか まったくわからなかった。
そして 突然、断崖から落ちてしまった。
戦慄が走った。
闇夜のことだから、下に何があるのか、谷が どのくらい深いのか、まったく わからなかった。
ともかく 木の枝に つかまり、祈り始めた。
夜は寒かった。
叫んでは みたものの、聞く者は誰もいなかった。
ただ 声が こだまするだけだった。
夜は 寒かったから、そのうち 手がかじかんできて、いつ枝から 離れるかわからなかった。
つかまっているのが だんだんつらくなってきた。
手が ひどくかじかんで、もう滑り始めていた。
死は迫っていた。
いつ落ちて死ぬかわからなかった。
そして ついに最後の瞬間がやってきた。
それは もうたいへんな恐怖だった。
刻一刻と 死の瞬間が近づき、ついに 最後のときがやってきた、そしてその手は 枝から滑り落ちた。
ひどくかじかんでいたため、それ以上 つかまっていられなかった。
だから 落ちるしかなかった。
ところが 落ちたとたん、彼は踊り始めた。
断崖絶壁など なかった。
すぐ下が 地面だった。
それなのに 一晩中、苦しんでいたわけだ。
これこそが人々の状況だ。
表面に しがみついている。
そして、「表面から離れたら、自分は おしまいだ」と恐れている。
でも実際は、表面に しがみついていると、あなたは おしまいだ。
ただ、奥底は闇で、地面は 見えない。
見えるものは 表面だけだ。
こうした技法はすべて、勇気や 力や 大胆さをもたらす。
それによって あなたは、しがみつくのをやめて、自分の中へ 落ちていけるようになる。
暗い、底なしの断崖のように見えるものは、じつは 自分の 存在の地面だ。
いったん表面を、表層部を離れたら、あなたは 中心に据わる。
この 中心を定めること(センタリング)こそが 的だ。
いったん 中心に定まったら、たとえ表層部へ赴いたとしても、もう昔とは まったく別人になっている。
意識の質が すっかり変わる。
表層部へ もどることもできるが、もはや二度と 表層部にはならない。
ずっと 中心に とどまっている。
中心にとどまっていれば、表層は 美しい。
表層を 楽しむことができる。
表層は 美しい遊びとなる。
もはや 葛藤はない。
ただのゲームとなる。
もはや表層は 緊張を生み出さず、苦しみも悩みも 存在しなくなる。
また、表層部が重荷になり 耐え難くなったら、いつでも源泉へ戻れる。
ひと風呂浴びて、さわやかになり、若返って、また表層部に向かえばいい。
いったん その道を知れば⋯⋯その道は 長くない。
ほかでもなく自分自身へと戻るのだ。
だから 長い道のりではない。
すぐ そばだ。
唯一の障害は、表層への しがみつきだ。
「もし表層を離れたら、自分は おしまいだ」という恐れがある。
その恐怖は、自らの死に似ている。
内側の中心へ向かうことは、ひとつの死だ。
表層部への同化が 死に、自分の存在の 新たなイメージ、新たな感覚が 生じてくる------その意味での死だ。
タントラの教えを 手短に言うなら、自分自身への 深いくつろぎ、自分自身への全面的なくつろぎだ。
あなたは いつも緊張している。
それこそが しがみつきであり、固執だ。
あなたは 決してくつろがない。
決して ゆだねの状態にない。
いつも 何かをしている。
その することこそが 問題だ。
決して 無為の状態にない。
物事が 起こっているとき、何もせずに そこにいてごらん。
息は 出入りし、血液は 循環し、体は生きて脈打ち、そよ風は 吹き、世界は 回り続ける------そして あなたは何もしない。
あなたは 行為者ではない。
あなたは ただくつろぎ、物事は 起こり続ける。
物事が起こり続け、あなたが行為者でなければ、それが くつろぎだ。
ところが、あなたが行為者であり、物事が起こるかわりに 自分で 物事を操作していたら、あなたは緊張している。
眠っているとき、あなたは部分的にくつろぐ。それは 全面的なものではない。
眠りの中でさえ、あなたは 操作を続ける。
眠りの中でさえ あなたは、すべてを 起こるがままに しておかない。
眠っている人間を 見てごらん。
緊張していることがわかるだろう。
体全体が 緊張している。
でも 眠っている子供を 見てごらん。
じつに くつろいでいる。
あるいは 動物だ------たとえば 猫。
猫は いつもくつろいでいる。
ところが人間は、眠っている間でさえ くつろいでいない。
緊張し、もがき、動き、何かと闘っている。
その顔には 緊張がある。
夢の中でも 闘ったり守ったりしている。
目醒めているときと 同じことを、内側のドラマとして 繰り返している。
だから くつろいでいない。
深いゆだねの状態にない。
だからこそ 眠りが だんだん難しくなってきているのだ。
心理学者によれば、もしこの状態が 続けば、まもなく 誰も自然に眠れなくなる。
それで 薬に頼るしかなくなる。
誰も 自然に就眠できなくなる。
そんな日も 遠くない。
人々は すでに その途上にいる。
眠っているときでさえ、たんに 部分的に眠っているだけだ。
部分的にくつろいでいる だけだ。
瞑想とは 最奥の眠りだ。
瞑想とは、全面的なくつろぎ プラス 何かだ。
つまり全面的に くつろぐとともに、覚醒していることだ。
意識が そこにある。
全面的な眠りに 覚醒を加えたものが 瞑想だ------完璧に 覚醒している。
物事は 起こっているが、あなたは もはや抵抗することも戦うこともない。
何も していない。
行為者が 存在しない。
行為者は 眠りに就いている。
ただ 観照者だけがある。
非行為的意識だけがある。
もはや 何事にも悩まされることがない。
くつろぐ術を 知っていたら、もはや 何事にも悩まされなくなる。
くつろぐ術を 知らなかったら、すべてに 悩まされる。
すべてによってだ。
何かによって悩まされるのではない。
すべては 口実だ。
その当人が いつでも悩まされる状態にある。
ひとつのものに 悩まされなかったとしても、別のものに 悩まされる。
あなたは いつでも 悩まされる状態にある。
悩まされる という傾向がある。
たとえ悩みの原因が すべて解消されても、依然として悩まされる。
必ず 何かの原因を 見つけだす。
必ず 何かの原因を 作り出す。
もし何も 外から やってこなければ、何かを 内から作り出す------何かの思考なり 観念なりを。
そして それによって悩まされる。
とにかく 口実が 必要だ。
しかし、ひとたび くつろぐ術を知ったら、もう何事にも 悩まされなくなる。
世界が 変わったわけでも、物事が 変わったわけでもない。
世界は そのままだ。
でも もはやその傾向が ない。
その 狂気が ない。
いつでも悩まされる状態が もうない。
すると、自分の まわりに起こることすべてが、安らぎとなる。
交通騒音でさえも 安らぎとなる------くつろいでいれば だ。
繁華街の 喧騒でさえも やすらぎとなる。
それは 自分次第だ。
それは 内側の質 だ。
中心へ 行けば 行くほど、その質は 増大する。
表層部へ 行けば 行くほど、悩みは 増大する。
だから あなたが よく悩むようなら、あるいは、悩むという傾向が あるようなら、それが示すことは ただひとつ、あなたが表層近くに存在している ということだ。
それ以外の何物でもない。
つまり それは、あなたが表面付近に 住みかを定めているという指標だ。
その住みかは 偽りだ。
真の家は 中心にある。
自らの存在の まさに中心にある。
◎⋯⋯98 ハートの中の平安を 感じる
◎⋯⋯第一の技法 へ つづく⋯⋯











