saleemのブログ

「 先ず一歩 内なる旅に 友は無し 」Zen柳

The Art of Dying 第五章 「所有と実存」(07)

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ひとたび ゴールを知れば、あなたは 自分の 実存の主人となる。

私が何を言おうとも、あなたは それを体験しなければならない。
私が 語り、それを 聞き、頭で理解するだけでは 大して役に立たない。



ムラ・ナスルディンは、三つの理由から カウボーイが勧める酒を断った。
「わけを 言ってみろ !」と 町の強面(こわもて)が怒鳴った。

ムラは言った、「一つ目は、私の宗教では 酒が禁じられているからだ。
二つ目は、祖母が亡くなるときに、その いまいましいものは扱わない、触らない、飲まないと 約束したからだ」
「三つ目は 何だ」、 と幾分和らいだ口調で 暴れ者が催促した。
「飲んできたばかりなんだ」、とムラは言った。


私の言うことを聞くだけなら、知的に理解するだけで 内なる意識の実験室で実験しないなら、 私が何を言っても ただ頭の中に残るに過ぎず、けっして生きた体験にはならない。
生きた体験にならなければ、それは無意味な知識、ガラクタだ。
あなたは 再び知識を集めだし、またもや同じ道、所有の次元を歩む。

知識は、手に入る限り幾らでも集め続けられる。
それほど多くの知識を得られるようになったのは、現代人の抱える 不幸の一つだ。
昔は そうではなかった。

現代人にとって最大の災いは、入手が可能となった莫大な知識であることは明白だ。
以前は 手に入らなかった。
ヒンドゥー教徒ヒンドゥー経典とともに、イスラム教徒は イスラム経典とともに、キリスト教徒は 聖書と ともに生きるのが常だった。
人々は隔離され、他の世界の知識に触れる者など いなかった。
物事は はっきりしていて、重なり合うことはなかった。

今日では、あらゆるものが重なり合い、莫大な知識が 手に入るようになった。
私たちは、「知識 爆発」の時代に生きている。
この爆発の中でなら、情報を集め、いとも簡単に、いとも手軽に大学者になれる。
けれども、あなたには 何の変容ももたらさない。


もう一度 頭に入れておきなさい、知識は 所有の次元に、智は 実存の次元に属す。
似ているようで 似ていない。
似ていないどころか 正反対だ。
知識を集め続ける者は、ずっと知らずにいる。
知るには、鏡のような、純粋で清らかなマインドが必要だ。
知識は 無用と 言っているのではない。
明快で、鏡のような、生き生きとした認識ができれば、とてつもなく有効に 知識が使える。
知識は有用になる。
だが、まず 智が そこになくてはならない。

知識は 極めて易く、智は 極めて難い。
智に至るには、多くの火の中を 潜り抜けなくてはならない。
知識を得るには 何の苦労も要らない。
今まで同様、知識はどんどん付け加えられる。


ある陽気な男、魅力はあっても 金のない都会の遊び人が、極めて醜い女性 ーー 金があるのが唯一の取り柄という女性と 突然 結婚して、友人たちを びっくりさせた。
驚きを倍増させたのは、どこへ行くにも、執拗にその奥さんを連れて行くということだった。
「君が、お金のために ひどいブスと結婚するのは わかるけどねぇ。
でも、どうして出かけるたびに彼女を連れて行くんだい ?」と友人の一人が率直に尋ねた。
「単純なことさ。さよならを言ってキスするよりいいだろう」


知識を得る方が易しい、とても安上がりで費用がかからない。
智に達するのは極めて難しく骨が折れる。
瞑想する人が 非常に少なく稀なのは、祈る人、真理を知ろうと努力する人が非常に稀なのはそのためだ。
何であれ、自分で知ったものでなければ 意味はない。
確信はできない、疑いは絶対に消えない。
疑いは 虫のように裏に潜み、あなたの知識を蝕む。
神を信じる と 声高に叫ぶことはできるが、その叫びは何ものも証明しない。
それが証明するものは ただひとつ、疑いがある ということだ。
疑いだけが 声を大きくする。
狂信者にはなれるが、その狂信性が示すものは ただひとつ、疑いがある ということだ。

自分の中に 疑いを持つ者しか、狂信的にはなれない。
狂信的ヒンドゥー教徒とは、ヒンドゥー教が正しいと 心から信頼できない人のこと。
狂信的なキリスト教徒とは、ただ単にキリスト教に疑いを持つ人のこと。
狂信的、攻撃的になるのは、他人に何か証明するためでなく、自分自身に対して 自分の信仰が本物である と証明するためだ。
狂信者は、そのことを証明しなければならない。

本当に知ると、人は 少しも狂信的でなくなる。
知った人、いや 神や己の実存を 垣間見ただけの人でさえ とても柔らかく、とても敏感で 繊細になる。
狂信的ではなく 女性的に、攻撃的ではなく 情の深い人間になる。
また、知ったがゆえに、他人のことも極めてよくわかるようになる。
正反対の考えを持つ人のことでさえ理解し得る。


(07)終わり・・・(08)へ 続く