saleemのブログ

「 先ず一歩 内なる旅に 友は無し 」Zen柳

The Art of Dying 第五章 「所有と実存」(10)

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さあ、物語だ。

ラビのヴィサカール・バエルが
オレシーニャ村の老いた農夫に出会った
農夫は若い頃のバエルを知っていた


バエルが出世したことも知らずに
農夫は呼びかけた、「バエル、どうしているんだね」


「あなたの方はどうですか」と ラビが尋ねた


農夫は答えた、「元気にやっているよ」
「お前に教えておこう
努力して得られぬものを、得ることはできないのだ」


それ以来、ラビのバエルは、人生の正しい行ないについて語るとき
いつも こう言い足した
「オレシーニャの老人は言った
『努力して得られぬものを、得ることはできない』と」


途方もなく意味深い言葉だ。
おそらく農夫は そういう深い意味で言ったのではなく、ラビがそのように解釈したのだろう。
それは 宝の石だ。
凡庸な農夫から・・・農夫はラビが理解したような意味で言ったのではないだろう。
人は、自分なりに解釈することしかできない。


それ以来、 ラビのバエルは、人生の正しい行いについて語るとき
いつもこう言い足した

「オレシーニャの老人は言った
『努力して得られぬものを、得ることはできない』と 」


きっと、老人は 普通の意味で言ったのだろう ーー この世の中、努力しなければ 何物も手に入らないと。
他に方法はない、何か得るには 一生懸命 働かなければならない。

それは凡庸な農夫の経験だ。
農夫は王ではなかった。
王であれば、自分で働かなくとも 多くの物が持てる。


ある大富豪が、貧乏な人に「金持ちになるには どうするのが 一番ですか」と 聞かれたことがあった。
富豪は答えた、「しっかり 親を選ぶことだよ」


しっかり親を選べるほどに 賢ければ、働かなくても たくさんの物を手にし得る。
そういう賢い人は 極めて少ない。
人々は ひたすら、目の前にある子宮に突進していく。

奪ったり、騙したり、搾取したり・・・幾多の方法がある。
だが その農夫、小百姓は、自分の稼ぎだけで生きてきた。
王でも、政治家でも、金持ちでもなかった。
働いた分だけ、それが 手に入るもののすべてだった。

農夫は、ごく ありきたりのことを言ったに違いない。
だが、その素晴らしさを見て取るがいい。
人は、何を聞くにしても 自分の次元で聴くしかない。
ラビは まったく違ったふうに聞いた。
それは、ラビの 実存の中で 光輝く言葉になった。
単純で ありきたりの言葉だったが、ラビは深い瞑想の中にあり、別の次元、実存の次元にいた。

実存の次元にいるとき、些細なものが、ありふれた小石が 宝石になる。
ありふれたものが 強い色彩を帯び、豊かな色合いになる。
ありふれた出来事が 幻想的 色彩を帯びる。
それは あなた次第、あなたの ビジョン次第だ。



それ以来、ラビのバエルは、人生の正しい行いについて語るとき
いつもこう言い足した
「オレシーニャの老人は言った
『努力して得られぬものを、得ることはできない』と 」



これは本当だ。
外の世界では あまり正しくないかもしれないが、内奥の世界では 絶対的に正しい。


(10)終わり・・・(11)へ 続く