saleemのブログ

「 先ず一歩 内なる旅に 友は無し 」Zen柳

第9話 彼方からのメッセージ(08)

(…たとえ話をひとつ )

ある男がものすごくお化けをこわがっていた
そして運悪く
彼の家は墓地のすぐ裏手にあったので
毎日の行き帰りに墓場を通らなければならなかった
そして,ときには遅くなって
夜の夜中にその墓場を通らなくてはならないーーー

そして,彼があまりにもお化けをこわがるあまり
彼の人生は絶えざる拷問と言ってよかった
彼は眠ることもできなかった
ひと晩中彼はお化けに悩まされる
あるとき彼らは扉をノックし
またあるときは家の中を動きまわる
それも,彼にはお化けたちの足音やささやき声が聞こえたのだ
そして,ときには
彼らはその息づかいが感じられるほどすぐ近くまでやって来る
彼は絶えざる地獄にいた


彼はひとりのマスターのところに行った
するとマスターは
「こんなことは何でもない
お前は正しい人間のところに来た」と言う
ん? 私があなた方に言うのとそっくりだ
「このマントラを持って行くがいい
それで充分
心配する必要はない
ただこのマントラを金の小箱に入れて
いつも持って歩きなさい
首にかけておいてもいい」
ちょうど私があなた方にあげるペンダントと同じことだ
それはひとつのマントラなのだ
でなければ
それは遠くへ行くサンニャーシンたちにあげるあの “魔法の小箱” に似ている
あれは魔法の小箱なのだ
ひとつのマントラなのだ

そのマスターは言う
「このマントラを持っていなさい
それをくり返す必要さえない
それはくり返す必要がないほどの効き目を持っているのだ
お前はただそれを箱に入れておくだけでいい
その箱を持っていれば
絶対にお化けなんかに悩まされることはないだろう」


そして,本当にその通りのことが起こった
その日,彼はまるで朝の散歩にでも行くかのように易々とその墓場を通り抜けた
いままでそんなに簡単だったことは一度もなかった
彼はそこを走り抜けたものだった
彼は大声でわめいたり叫んだりしたものだった
通っている間中歌を歌わなければならないこともあった
その日,彼は箱を手に持ってとてもゆっくりと歩いた
すると,本当に効き目があった
お化け ゼロ !
彼は墓地のど真ん中で立ち止まってみることさえした
誰か出て来ないかと待ってみたのだ
ところが,ひとりのお化けも顔を見せない
それは全き静寂だった


そうして,彼は家に帰った
彼は枕の下にその箱を置いた
その夜は誰ひとり扉をノックもしなければ
誰ひとりささやきもせず
誰ひとり彼の近くに寄って来もしなかった
彼がそれほどよく眠ったのは生涯ではじめてのことだった
それは偉大なマントラだった


ところが,今度はあまりにもその箱に執着するようになった
彼はどこにもそれを置いておけなかった
一日中あらゆるところに持って歩かないと気が済まない


みんなが聞きはじめた
「なんでいつもいつもこんな箱を持っているの ? 」
すると彼は
「これが私のお守りなんです
私の安全装置なんです」と答える


彼は今度は
「もしある日この箱がなくなったりしたら
その時には大問題になるぞ
そして,奴らは大変な仕返しをするに違いない
お化けどもめ ! 」と,ものすごくこわがるようになってしまった
物を食べるにも,彼はその箱を持っている
トイレに行くにも彼はその箱を持っている
そしてどこへ行くにも彼はその箱を持っている
女の子と寝ていてもその箱を持っている
彼は気違いになっていた
そして,いまやその恐怖は圧倒的だった
もし盗まれたりしたら !
もし誰かがいたずらをしたら !
あるいは,どこかでそれをなくしたりしたら !
とにかく何かその箱に起こったら……
一体どうしょう !
「そんなことになったら
何か月もの間,あのお化けどもは私を悩ませようとまとわりつくに違いない
奴らはあらゆるところから私に飛びかかってくるだろう
奴らは私を殺そうとするに違いない ! 」


そこへマスターがある日
彼の様子はどうかと見に来た


彼はこう言った
「何もかもうまくいっています
何もかも完璧にうまくいっています
けれども
今度は自分自身の恐怖に責めさいなまれています
私はまたしても眠ることができません
ひと晩中箱がまだちゃんとあるかどうか見ていないとなりません
何度も何度も
私は目を覚まして箱を探さないとなりません
そしてもし
たまたまそれがベッドのあちらこちらにすべって行って見つからなかったりすると
それはもう大変な恐ろしさです !
命の縮まるこわさです ! 」
マスターはこう言った
「今度はもうひとつ別なマントラをあげよう
この箱は捨ててしまいなさい」
すると彼は
「そうしたら私はどうやってお化けから自分を守るんですか ? 」と言う
マスターいわく
「そんなものはいやしない
こんな箱はただのナンセンスだ
そんなお化けなんかいやしない
この箱に効き目があったのはそのせいだ
そんなお化けはお前のイマジネーションにすぎない
もし彼らが本当にいるんだとしたら
彼らはそんな箱なんかこわがったりはすまい
それはただのお前の観念だ
そういうお化けどもはお前の思いつきなのだ
いまお前にはもっといい思いつきがある
お前にはマスターがいるからだ
そしてマスターはお前にひとつの箱
ひとつ魔法の文句をくれた
今度はもっと理解力を持ちなさい
お化けなんていうものはいやしない
この箱が役に立ったのはそのためだ
もうその箱にそんなに取り憑かれる必要は何もない
そんなものは捨ててしまいなさい ! 」


マントラとは
本当にはそこにない物事を取り去るひとつの呪文だ
たとえば
マントラはあなたが自我(エゴ)を落とすのに役立ってくれるだろう
自我(エゴ)というのは一種の “お化け” だ
ただの観念にすぎない
だからこそ私はあなた方にこう言うのだ
「私がここにいるのは
本当にはあなたの中にないものを取り去って
本当にそこにあるものをあなたに与えるためだ
私の役目はあなたがもうすでに持っているものをあなたに与えてあげることであり
あなたが一度として持っていたことがないのに持っていると思っているものをあなたから奪うことだ」,と
あなたの悲劇
あなたの傷
あなたの野心
あなたの嫉妬
あなたの恐怖

憎しみ
執着ーーー
それらはみんなお化けだ
マントラというのはただのトリック
あなたがあなたのお化けを落とすのを助けるひとつの策略にほかならない
一度あなたがそういうお化けどもを落としてしまったら
そのときにはマントラも落とさなければならない
お化けどもが消え失せたと感じたら
人はもうそれ以上そのマントラを持ってまわる必要なんかない
そしてそうなったら
あなたはその馬鹿らしさの全体を笑いとばすことだろう
お化けどもは嘘だった
そしてマントラも嘘だった
だが,それは役に立ったのだ




(09)へ続く