saleemのブログ

「 先ず一歩 内なる旅に 友は無し 」Zen柳

第九章 「 浄土楽園 」 (11)

(…ある男の話を きいたことがある

彼は 慧能のような人だったにちがいない

かなりの年で、六十五歳から七十歳ぐらいだった )

 

彼は 朝の散歩に 出かけた

そして、 ある女の人が 家の中で 自分の 息子か誰かを 起こしていたにちがいない

その 老人が 道をゆくと、その女の人が こう叫んでいた

「起きる時間よ

 朝よ !

 もう夜じゃ ないのよ !」

老人は その言葉を 耳にした

ん? それは『金剛般若経 (ダイヤモンド・スートラ)』でさえ なかった

ただ 女の人が 誰かに こう言っているだけだった

「起きなさい !

 もう じゅうぶんでしょ

 あなたは長いこと 眠ってきた

 もう 夜じゃないのよ

 太陽が昇って、朝が きたのよ」

そして、 老人は 聴いた

彼は 受容的な心境でいたにちがいない

 

早朝

小鳥の さえずり

太陽

すずしい そよ風 ーーー

そして その言葉が、 矢のように激しく ハートに突き刺さった

「朝だ

 あなたは 長く 眠りすぎてしまった

 そして もう 夜ではない」

彼は 二度と家へ 帰らなかった

 

彼は 町の外へ行き、寺院のなかに坐って 瞑想していた

人々は 彼について 知るようになった

彼の家族も かけつけて来て、「いったいここで何をしてるの ?」と 言った

 

彼は 言った

「朝だ

 もう夜ではない !

 私は すでにじゅうぶん眠った

 もうたくさんだ !

 勘弁しておくれ

 私を 独りにしておいてくれないか

 私は 目覚めなければならない

 死が 近づいてきている

 私は 目覚めなければならない」

 

そして、 その女の戸口を 通り過ぎるときはいつでも

ーーー その女性には 一度も会ったことはなかったのだが ーーー

彼は、戸口の所に行って 頭を下げたものだった

それが 彼の寺院であり、その女性が彼の マスターだった

彼は その女性を 一度も 見たことがなかった

そして、その女性は 平凡な女性だった

 

ときとして、わずかな言葉が

ーーー たとえ ふつうの人たちの 発した言葉であったとしても ーーー

しかるべきハートの土壌の中に落ちて、大いなる変容を もたらすことはありうる

まして ブッダの言葉については 何と言えばいいだろう ? 

 

 

(11)終わり・・・(12)へ 続く