「これらの技法はヨガに属するものですか、それともタントラに属するものですか」。
「第一の質問」01
『今までお話になった「ヴィギャン・バイラヴ・タントラ」の諸方法は、ヨガの科学に属するものであって、タントラの扱う課題ではないように思いますが、その点をご説明ください。
タントラの中心的な課題とはなんでしょう』。
たくさんの人々が 同じ疑問を抱いている。
私たちの論議してきた技法は、ヨガにも また属している。
技法としては 同じだ。
ただ ひとつ 違いがある。
同じ技法でも、その背後にある哲学が まったく違っている。
違うのは その骨組みや様式であって、技法ではない。
人によっては 生に対する姿勢が違っている ーー タントラとは正反対であったりする。
ヨガの基本は 闘争だ。
ヨガは そもそも意志の道だ。
タントラの基本は 闘争ではない。
タントラは 意志の道ではない。
むしろその逆に、タントラとは 全面的な 明け渡しの道だ。
意志は いらない。
タントラでは 意志こそが障害だ ーー あらゆる苦悩の源泉だ。
一方、ヨガで 障害となるのは、明け渡しであり、意志のなさだ。
ヨガでは、意志が弱いから あなたは苦しみ、悩む。
タントラでは、意志が あるから、エゴがあるから、個々独立しているから、あなたは 苦しむ。
ヨガによると、意志を絶対的な完成の域までもっていけば、あなたは 解放される。
タントラによると、意志を完全に溶かしされば……意志をなくして全面的に空(から)になれば、それが あなたの解放となる。
両方とも 正しい。
そこが 難しいところだ。
私に言わせれば、両方ともに正しい。
しかしヨガの道は 非常に難しい。
あなたにとって、エゴの完成を達成するのは、まず不可能だ……ほとんど不可能だ。
つまり それは、あなたが 全宇宙の中心となる ということだ。
この道は 非常に長くて骨折りだ。
実際、終点に達することはありえない。
だとすれば ヨガの実践者はどうなるのか。
道のどこかで、どこかの生で、彼は タントラに転ずる。
頭でなら ヨガも想像できる。
しかし実際には ヨガは不可能だ。
もしヨガが 可能だったら、ヨガで到達することもあるだろう。
ところが 一般的に言って それは起こりえない。
起こるとしても 非常に稀だ ーー マハヴィーラ (ブッダの同時代人で ジャイナ教の祖)のような人間にしか起こらない。
何世紀も何世紀も経って、時々､ マハヴィーラのような人間がひとりヨガで到達するくらいだ。
でも そんな人間は稀だ。
例外だ……規則破りだ。
ところが ヨガはタントラよりも 人をひきつける。
タントラは 容易で自然だ。
タントラによって あなたは、まったく容易に、自然に、努力することなく到達出来る。
そのせいで あなたはヨガほど タントラには ひかれない。
なぜか。
ひかれるということは、エゴがひかれるということだ。
あなたが ひかれるのは、エゴが 満たされると思うからだ。
あなたは エゴに とらわれている。
それで あなたは ヨガに強くひかれる。
実際、エゴイスティックな人間ほど ヨガにひかれる。
なぜなら ヨガは純粋に エゴの努力だからだ。
不可能で あればあるほど、エゴはひかれる。
だからこそ エヴェレストは 強く人をひきつけるのだ。
ヒマラヤの頂上に到達することはじつに 魅力的なことだ。
なぜなら それは難しいからだ。
ヒラリーとテンジンが エヴェレストをきわめたとき、ふたりは非常な恍惚感(エクスタシー)を 味わった。
それは なんだったか。
エゴが 満たされた ということだ。
そのふたりこそが 一番だった。
月に初めて 降り立った人間は、いったいなにを感じただろう。
彼は 全歴史の中の 最初だった。
もはや その事実は変更できない。
これから先の 歴史においても、ずっと彼は 一番のままだ。
その地位は けっして揺るがない。
エゴは 深く満たされる。
もう 競争者はいない。
ありえない。
この先 多くの人々が 月に降り立つだろうが、もう誰も 一番ではない。
月に降り立つ者は 多いだろうし、エヴェレストに達する者も多いだろう。
だが、ヨガのもたらす頂点は もっと高い。
目的への到達が 難しければ難しいほど、エゴは 完璧なものになる ーー 純粋で、絶対的なエゴになる。
ヨガは きっと ニーチェを大いに ひきつけたはずだ。
そもそもニーチェは こう考えていた､「生の背後で働いている エネルギーは、意志のエネルギーだ、力への意志だ」。
ヨガは そういう感覚を もたらす。
ヨガを通じて あなたはより強力になる。
01おわり…02へ つづく
タントラ秘法の書 第四巻
「沈黙の音」
ヴィギャン・バイラヴ・タントラ
講話 OSHO
翻訳 スワミ・アドヴァイト・パルヴァ
（田中ぱるば）
発行者 マ・ギャン・パトラ
発行 株式会社 市民出版社
