saleemのブログ

「 先ず一歩 内なる旅に 友は無し 」Zen柳

第七章「死んではいません」5️⃣

(…彼(愚堂)の言っている意味は こうだ。
今、この今の瞬間の 私を 見てください。
解脱を得た者が あなたの眼の前にいるのですよ。
この私を 見てください。
なぜ それ以外のことを心配するのですか?)


あるとき、 一人の男が 愚堂に会いにやってきた。

愚堂は高名な師だった。
その男はとても年をとっていて、九十に近い年齢だった。
彼は仏教の ある宗派に属している人で、愚堂に こんなことを訊ねたという。
「私は遠路はるばるやって参りました。
私の命も もう長くありません。
私はつねづね あなたにお会いしたかったのですがーーー愚堂は天皇家の導師として国中に知られていたーーー死ぬ前に ぜひ一度と思い、やって参りました。
というのも、私には 一つどうしてもお尋ねしたいことがあるのです。

五十年近く 経典を学んできましたので、私は ほとんどのことは知り尽くしています。
ですが、一つだけ 私の心を乱すことがあるのです。
それは経典に書かれてある、樹木や岩でさえも解脱に達するということです。
これが、私には どうしても理解できません。
樹木や岩ですよ?」

愚堂は それを聞くと こう言った。
「一つだけ 答えてくれませんか。
あなたはこれまで、自分のことについて 考えたことはないのですか?
自分が解脱できるかどうか、考えたことはないのですか?」

すると その老人は はっとして言った。
「おかしいですね。
白状しますが、私は そんなことは 今まで 一度も考えたことがありません」


樹々や岩が どうして解脱できるのだろうと、この男は、なんと五十年も 考えつづけてきたのだ。

そして遠い道のりを愚堂の許まで、ただただこの質問をするためにやってきた。
だが、自分自身のことは 一度として考えたことがなかった!


人は 死に関する話よくするが、今のこの瞬間を生きて在ることを知らずにいる。

生命(いのち)は こ こ にある。
まず そのことを知りなさい。

そして全身全霊をもって 生きることだ。
なんであなたがたは死の話などする?


人は 死んだらどうなるかについて話す。
だが、 今、 自分に何が起こっているかを 考えた方がずっといい。
そして 死がやってきたら、ただそれに 出会うだけだ。
まず、今ここにある生に 出会いなさい。
もしあなたに 生と出会うことができたら、死と出会うことも できるようになる。


正しく生きることができる人は 正しく死ぬ。

全身全霊をかけて 生きてきた人、豊かな生を生きてきた人、瞬間から瞬間に動き、目覚め 意識して生きてきた人、こういう人は、死がきても 当然同じように 死に向かうだろう。
その死を 生きるだろう。


そういう人は、現在を どう生きるかの特質(クオリティ)を 知っているからだ。
だから、死が 現在になったら それを生きるだけのこと。

しかし、人は 死の方をずっと心配して 生をあまり気にかけない。
だが、
生さえ知ることが できないのに、どうやって死を知ることができる?


死とは、生と別々に在るものではない。

それは 生のクライマックスそのものだ。

だから もしあなたが 生を見逃したら、

死もまた見ることはできない。

死がきても、あなたは 意識を失って昏睡するだろうから。


これは事実、どこにでも起こっていることだ。

人は深い昏睡状態で 死んでいく。
その生全体を 無意識の内に生きてきたからだ。
生を無意識に扱っているのに、どうやって死の直前に意識できるようになる?


死とは 一瞬のうちに起こるもの。

ところが 生は 七十年、 八十年というプロセスでつづく。
もし 八十年かけても 自覚することができないなら、もし意識できるようになるのに 八十年でも充分でないなら、どうやって この 死の一瞬を意識することができよう?


死は、 生の 瞬間瞬間を生きてきた人だけが 見ることができる。

生の 瞬間瞬間を 生きてきていれば、死の瞬間も 見逃さないからだ。


そういう人は明晰(メイセキ)だ。
その 非常に深い 曇りない明智のゆえに、死が来て 動いていくその一瞬でさえ、はっきり見知ることができる。

生を 見 る ことが できた人は、自然に その死もまた見ることができる。

そして その見ることにおいて、人は 生でも死でもないところに 在ることを知る。

ただ、生や 死の 立会人として在るのだ ということを知る。



人が、 解脱に至っている人は 死ぬとどうなるか問う場合、その人は 当然ながら解脱してはいない。

その人は 深い無知から その問いを発している。
だから それに答えるのは 大変むずかしい。


それはちょうど 盲目の人が、朝、太陽が昇るとどうなるか訊くようなもの。

どうやって説明すればいい?
どうやったら 伝えられるかね?

それを 伝えることは不可能だ。


6️⃣へ つづく